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ERMの悩みはこれで解決|鍵は経営層のコミット?

全社的リスクマネジメント(ERM)を取り組まれている方の中で、「重要なことだが何をどうすれば良いのか分からない...」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

さまざまな業界のリスクマネジメント活動を支援している弊社、株式会社GRCSが長年培ってきた知見を記載します。

第1章:全社的リスクマネジメント(ERM)の基礎

1.1 全社的リスクマネジメント(ERM)の定義
全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management, ERM)とは、企業全体のリスクを体系的に特定、評価、管理するためのプロセスを指します。ERMは、単なるリスク管理の手法ではなく、企業の戦略的目標を達成するためにリスクを理解し、活用するためのフレームワークです。これにより、企業は不確実性を減少させ、機会を最大化することが可能になります。

ERMの基本的な目的は、リスクを単なる脅威として捉えるのではなく、企業の成長や競争優位性を高めるための要素として位置づけることです。これにより、経営層はリスクを戦略的に管理し、意思決定においてリスクを考慮することができるようになります。

【図1】
図|ERMとは2




1.2 部門最適ではなく、全社的アプローチの必要性

従来のリスク管理は、各部門ごとに行われることが一般的でした。(【図1】参照)このアプローチでは、部門ごとのリスクが個別に管理されるため、全体としてのリスク状況を把握することが難しく、部門間の連携も不足しがちです。その結果、リスクの重複や見落としが発生し、企業全体のリスク管理が不十分になる可能性があります。

全社的アプローチを採用することで、企業はリスクを一元的に管理し、部門間のシナジーを生み出すことができます。これにより、リスクの相互関係を理解し、全体としてのリスクを最適化することが可能になります。また、全社的なリスクマネジメントは、企業の戦略的目標と整合性を持たせることができ、リスクを戦略的な意思決定に組み込むことができます。




1.3 リスクマネジメントの進化
リスクマネジメントは、過去数十年にわたり大きな進化を遂げてきました。初期のリスク管理は、主に財務リスクや大規模災害BCP、危機管理(クライシスマネジメント)に焦点を当てていましたが、近年では、非財務要因を含めた統合リスク、重要リスクに対するBCP、サイバーリスク、 reputational risk(評判リスク)、環境リスクなど、さまざまなリスクが企業の経営に影響を与えることが認識されています。

【図2】
図|リスクマネジメントの従来違い

この進化に伴い、リスクマネジメントは単なる防御的な手段から、企業の成長を促進するための戦略的な要素へと変化しています。企業は、リスクを管理するだけでなく、リスクを機会として捉え、イノベーションや新たなビジネスモデルの創出に活用することが求められています。

このように、全社的リスクマネジメント(ERM)は、企業の持続可能な成長を支えるための重要なフレームワークであり、経営層がリスクを戦略的に管理するための基盤となります。次章では、経営層の役割と責任について詳しく探っていきます。

第2章:経営層の役割と責任

2.1 経営層が果たすべきリーダーシップ

経営層は、全社的リスクマネジメント(ERM)の成功において中心的な役割を果たします。リーダーシップは、リスクマネジメントの文化を企業全体に浸透させるための重要な要素です。経営層は、リスクに対する姿勢や価値観を示すことで、従業員に対してリスクマネジメントの重要性を伝え、組織全体での意識を高める必要があります。2024年に弊社(株式会社GRCS)が行ったERMの課題に関するアンケートでは、1位が「経営層の理解不足」と「専門部署(専門家)がない」でした。(図3参照)

【図3】
図|ERMの課題

では経営層はどのようにERMへ関わり、リーダーシップを発揮するとよいのでしょうか?
具体的には、経営層は以下のような行動を通じてリーダーシップを発揮します。


  • ビジョンの提示:経営層は、リスクマネジメントが企業の戦略的目標にどのように貢献するかを明確にし、全社員にそのビジョンを伝える必要があります。
  • リスクに対するオープンな姿勢:経営層がリスクを隠すのではなく、オープンに議論する姿勢を示すことで、従業員もリスクを報告しやすくなります。

  • リソースの確保:リスクマネジメントのための適切なリソース(人材、時間、予算)を確保し、実行可能なプランを支援することが求められます。【図3】のアンケート結果でも、6.7%がリソース不足をERMの課題だと回答しています。

 


2.2 リスクカルチャーの醸成
リスクカルチャーは、企業がリスクをどのように認識し、管理するかに大きな影響を与えます。経営層は、リスクカルチャーを醸成するために以下のような取り組みを行うべきです。
リスクカルチャーの醸成が進んでいる企業は、経営層が積極的にコミットしています。
  • 教育とトレーニング:従業員に対してリスクマネジメントの重要性や手法についての教育を行い、リスクに対する理解を深めることが重要です。定期的なトレーニングを通じて、リスクマネジメントのスキルを向上させることができます。

  • 成功事例の共有:リスクマネジメントの成功事例や教訓を社内で共有することで、従業員の意識を高め、リスクに対する前向きな姿勢を促進します。

  • インセンティブの導入:リスクマネジメントに貢献した従業員やチームに対してインセンティブを提供することで、リスク文化を強化することができます。
【Point】
外部の専門家を講師として招くことも効果的です。社外のノウハウも取り入れることでスピーディさも増し、現場も緊張感を持ってERMの重要性を認識しやすくなります。
弊社(株式会社GRCS)でもERM研修を行っておりますので、お気軽にお問合せください。

 

2.3 ステークホルダーとのコミュニケーション

経営層は、ステークホルダーとの効果的なコミュニケーションを通じて、リスクマネジメントの透明性を確保し、信頼関係を築くことが重要です。以下のポイントに留意することが求められます。

  • 定期的な報告:ステークホルダーに対してリスクマネジメントの状況や成果を定期的に報告し、透明性を持たせることが重要です。これにより、ステークホルダーは企業のリスク管理に対する信頼を深めることができます。
    特に上場企業は”事業等のリスク”を有価証券報告書で「ガバナンス」と「リスク管理」についての開示が義務化されています。(詳しくは金融庁の資料をご覧ください)

  • フィードバックの受け入れ:ステークホルダーからの意見やフィードバックを積極的に受け入れ、リスクマネジメントの改善に活かす姿勢が求められます。これにより、ステークホルダーとの関係が強化され、リスクマネジメントの質が向上します。

  • 有事のコミュニケーション:リスクが顕在化した際には、迅速かつ適切なコミュニケーションを行うことが重要です。経営層は、危機管理の一環として、ステークホルダーに対して誠実かつ透明な情報提供を行う必要があります。

このように、経営層は全社的リスクマネジメントの推進において重要な役割を果たします。次章では、リスクの特定と評価について詳しく探っていきます。

 

第3章:リスクの特定と評価

3.1 リスクの種類と特性

リスクは、企業やプロジェクトに影響を与える可能性のある不確実性を指します。リスクの種類は多岐にわたり、それぞれ特性が異なります。以下に、主なリスクの種類とその特性を示します。

戦略的リスク 企業の戦略やビジネスモデルに関連するリスクです。市場の変化、競争環境の変化、顧客のニーズの変化などが含まれます。これらのリスクは、企業の長期的な成長に影響を与える可能性があります。
オペレーショナルリスク 日常の業務運営に関連するリスクで、プロセスの失敗、人的エラー、システムの障害などが含まれます。オペレーショナルリスクは、企業の効率性や生産性に直接的な影響を与えることがあります。
財務リスク 資金調達や投資に関連するリスクです。金利の変動、為替リスク、流動性リスクなどが含まれます。財務リスクは、企業の財務状況やキャッシュフローに影響を与える可能性があります。
法的リスク 法令や規制の変更、訴訟リスクなど、法的な問題に関連するリスクです。法的リスクは、企業の評判や財務に深刻な影響を与えることがあります。
環境リスク 環境問題や自然災害に関連するリスクです。気候変動、自然災害、環境規制の強化などが含まれます。環境リスクは、企業の持続可能性や社会的責任に影響を与えることがあります。

これらのリスクの特性を理解することで、企業はリスクを適切に特定し、評価するための基盤を築くことができます。【図4】はISO31000におけるリスクマネジメントのプロセスです。ISO31000とは、リスクマネジメントにおける一般的な指針を示した国際標準規格です。

【図4】

3.2 リスク評価手法の紹介

リスク評価は、リスクの特定とその影響を理解するための重要なプロセスです。以下に、一般的なリスク評価手法を紹介します。

定性的評価:リスクの影響や発生確率を定性的に評価する手法です。専門家の意見や過去の事例を基に、リスクの重要度を評価します。定性的評価は、迅速にリスクを特定するのに適していますが、数値的な根拠が乏しいため、主観的な要素が含まれることがあります。

定量的評価:リスクの影響や発生確率を数値で評価する手法です。統計データや数理モデルを用いて、リスクの発生確率や影響の大きさを定量的に測定します。定量的評価は、より客観的な評価が可能ですが、データの収集や分析に時間とリソースが必要です。

ヒストリカルアプローチ:過去のデータを基にリスクを評価する手法です。過去の事例や統計データを分析し、リスクの発生確率や影響を推定します。この手法は、特に過去のデータが豊富な場合に有効です。

シナリオ分析:さまざまなシナリオを想定し、それぞれのシナリオにおけるリスクの影響を評価する手法です。シナリオ分析は、リスクの不確実性を考慮し、将来のリスクを予測するのに役立ちます。

これらの手法を組み合わせることで、リスク評価の精度を向上させることができます。

 

3.3 リスクマップの活用

3.3-1.リスクマップとは
企業が直面するリスクは多岐にわたり、その管理はますます重要になっています。全社的なリスクマネジメント(ERM)を実施する際、自社のリスクマップの作成を取り掛かりとすることが少なからずあります。本記事では、リスクマップ作成のポイントとその重要性について詳しく解説します。

リスクマップ(リスクマトリックス)は、リスクの発生可能性と影響度を視覚的に表現したものです。X軸にはリスクの発生可能性、Y軸には顕在化した際の影響度を設定し、洗い出したリスクをプロットします。このマップを用いることで、リスクの優先順位を明確にし、効果的な対策を講じることが可能になります。【図5】をご覧ください。どちらがリスクの優先順位を判断しやすいですか?

【図5】
図リスクマップ

3.3-2.リスクマップ作成の重要性

リスクマップは、企業がリスクを可視化し、戦略的に管理するための重要なツールです。特に、企業規模が大きく、業態が多様なほど、リスクの洗い出しやそれぞれの評価に工数を多く要するうえ、評価基準が統一されていないと一元的なマッピングが困難なためリスクマップ作成は容易ではありません。しかし、リスクマップを作成することで、全社を俯瞰して重大なリスクがどこにあるかの把握が可能になり、経営判断に役立てることができます。

 

3.3-3.リスクマップ作成のポイント
①適切な段階数を設定する
影響度の評価は、できるだけ定量化することが望ましいです。金額換算が難しい場合は、影響が残る期間や人命への影響有無など、代替指標を用意することが重要です。また、発生可能性の評価は、一般的に3段階または5段階で設定することが多いです。これにより、リスクの評価がより明確になります。

②自社の状況や風土に合った洗い出し
理想としては、現場からリスクをもれなく洗い出し、一次評価を行い、その後管理部門のレビューを経て最終化するプロセスが望ましいです。しかし、初めから全員の参加を求めるのは難しい場合もあります。その場合、事務局が用意したカタログリスクから選んで評価してもらったり、業界標準のリスクマップを参考にして自社の状況に合わせて修正する方法も有効です。他にも全社の事業を俯瞰できるメンバーで作成する手段もあります。いずれにせよ次に繋げることを考えると、多くの参加者のコンセンサスを得ることが、リスクマップの信頼性を高めるためには望ましいです。

③社長や経営陣が納得して腹落ちできるもの
リスクマップは単なる学術研究の一環ではないので、必ずしも現状と一致している必要はありません。むしろメッセージを込めるために鶴の一声で評価を変えることもあるでしょう。肝心なのは、「このリスクマップは次のアクションに繋がるのか」という点です。意見が反映されたリスクマップは、ないがしろにせず思いの詰まったものになるでしょう。また、リスクマップは一度作成して終わりではなく、日々新たに顕在化したリスクの把握や評価の見直しを行い、常に更新していくことが重要です。
図6は弊社が開発しているERMに特化したツールEnterprise Risk MT(通称、ERMT)のダッシュボード画面です。図7では縦軸をリスク損害額、横軸を損失削減額からリスク対応費(対応策のコスト)を引いた実質削減額を表しています。
この図7のようなデータを経営層とリスクマネジメント部門が共有し、自社のリスクマネジメントの現状やリスクマネジメント活動の効果測定に役立てることができます。

【図6】


【図7】

 

3.3-4.リスクマップの活用方法

充実したリスクマップが完成すれば、対応策の立案や進捗管理の高度化に役立ちます。また、リスクマップは対外的な開示資料としても利用でき、企業の透明性を高める材料となります。リスクマップを基にした戦略的な意思決定は、企業の競争力を向上させる糧となります。



3.3-5.リスクマップについてのまとめ

リスクマップは、企業が抱えるリスクを可視化し、戦略的に管理するための重要なツールです。適切な段階数の設定、自社の状況に合ったリスクの洗い出し、経営陣の納得を得ることが、効果的なリスクマップ作成のポイントです。リスクマップを活用することで、企業は持続可能な経営へつなげることができます。

全社的リスクマネジメントの高度化支援ツールEnterprise Risk MT(ERMT)の詳細は▼こちらからご確認いただけます。

第4章:リスク対応戦略の策定

4.1 リスク回避、軽減、移転、受容の選択肢(守りの対策)
リスク対応戦略は、特定されたリスクに対してどのように対処するかを決定する重要なプロセスです。リスクに対する主な対応策には、守りの対策は主に以下の4つの選択肢があります。

リスク回避:リスクを完全に排除するための戦略です。具体的には、リスクの高いプロジェクトを中止したり、特定の市場から撤退することが含まれます。リスク回避は、リスクが企業の目標達成に重大な影響を与える場合に有効です。

リスク軽減:リスクの発生確率や影響を減少させるための戦略です。具体的には、リスク管理手法やプロセスを導入することで、リスクの影響を最小限に抑えることができます。例えば、セキュリティ対策を強化することでサイバーリスクを軽減することが考えられます。

リスク移転:リスクを他者に移すことを目的とした戦略です。保険の購入や外部業者との契約を通じて、リスクの一部を移転することができます。これにより、企業はリスクの影響を軽減し、財務的な負担を軽減することが可能です。

リスク受容:リスクを受け入れることを選択する戦略です。リスクが小さい場合や、リスクを受け入れることで得られる利益が大きい場合に適用されます。リスク受容は、リスクを管理するためのコストがリスクの影響よりも大きいと判断される場合に選ばれます。




4.2 リスク活用、強化、共有、受容の選択肢(攻めの対策)

攻めの対策は主に以下の4つの選択肢があります。

リスク活用:機会を活用できるようにする戦略です。例えば、新市場への進出や革新的な製品の開発時に適用します。

リスク強化:機会の発生確率を上昇させる戦略です。具体的には、パートナーシップ強化や広告投資で販売増加を狙うことで、機会の発生確率を上昇させます。

リスク共有:機会をつかむために第三者と協力する戦略です。こちらもパートナーシップ強化や、共同事業(ジョイントベンチャー)等で自社のみでは難しかった範囲にも機会を発生させるようにします。

リスク受容:機会のメリットが少ない場合、特に対策は取らない戦略です。例えば、自社のターゲット層ではない市場での売上発生等は、そこを伸ばすために投資するのではなく、自然発生を期待するイメージです。

【図8】



4.3 戦略的リスクマネジメントのフレームワーク
戦略的リスクマネジメントは、企業の戦略的目標とリスク管理を統合するためのフレームワークです。このフレームワークは、リスクを戦略的な意思決定に組み込むことを目的としています。以下の要素が含まれます。

リスクの特定と評価:企業の戦略に関連するリスクを特定し、その影響を評価します。これにより、リスクの優先順位を決定し、対応策を策定する基盤を築きます。

戦略的目標との整合性:リスクマネジメントは、企業の戦略的目標と整合性を持たせる必要があります。リスクが企業の成長や競争優位性にどのように影響するかを理解し、リスクを戦略的な意思決定に組み込むことが重要です。

リスク対応策の実施:特定されたリスクに対して、適切な対応策を実施します。これには、リスク回避、軽減、移転、受容の選択肢を考慮し、最も効果的な戦略を選択することが含まれます。

モニタリングとレビュー:リスクマネジメントのプロセスは継続的にモニタリングされ、定期的にレビューされるべきです。これにより、リスク環境の変化に対応し、戦略的リスクマネジメントの効果を評価することができます。

【図4】



4.4 実行可能なアクションプランの作成
リスク対応戦略を策定した後は、実行可能なアクションプランを作成することが重要です。このアクションプランは、リスク対応策を具体的に実施するための手順を示します。以下のステップが含まれます。

目標の設定:アクションプランの目的を明確にし、達成すべき具体的な目標を設定します。これにより、進捗を測定しやすくなります。

責任者の指定:各アクションに対して責任者を指定し、実施の進捗を管理します。責任者は、アクションの実施状況を報告し、必要に応じて調整を行います。

タイムラインの設定:各アクションの実施期限を設定し、進捗を追跡します。タイムラインを明確にすることで、計画的な実施が促進されます。

リソースの確保:アクションプランを実行するために必要なリソース(人材、予算、時間など)を確保します。リソースの適切な配分が、アクションの成功に寄与します。

評価とフィードバック:アクションプランの実施後は、結果を評価し、フィードバックを収集します。これにより、次回のリスクマネジメントプロセスに活かすことができます。

このように、リスク対応戦略の策定は、企業がリスクを効果的に管理し、戦略的な目標を達成するための重要なプロセスです。次章では、テクノロジーとリスクマネジメントの関係について詳しく探っていきます。

第5章:リスクマネジメントの評価と改善

5.1 KPIとパフォーマンス評価
リスクマネジメントの効果を評価するためには、適切な指標(KPI: Key Performance Indicators)を設定することが重要です。KPIは、リスクマネジメントのプロセスがどれだけ効果的に機能しているかを測定するための具体的な数値や指標です。以下は、リスクマネジメントの評価に役立つKPIの例です。

リスクの発生率:特定の期間内に発生したリスクの数を測定します。リスクの発生率が低下している場合、リスクマネジメントの効果が示されます。

リスク対応の成功率:特定のリスクに対して実施した対応策が成功した割合を測定します。成功率が高いほど、リスクマネジメントが効果的であることを示します。

コストの削減:リスクマネジメントの実施によって削減されたコストを測定します。これには、リスクによる損失の回避や、リスク管理にかかるコストの最適化が含まれます。

従業員の意識向上:従業員のリスクに対する意識や知識の向上を測定するためのアンケートやテストを実施します。従業員の意識が高まることで、リスクの早期発見や報告が促進されます。


【KRI】
KRIとは、リスクマネジメントの評価において重要な指標として、KRI(Key Risk Indicators)も挙げられます。KRIは、特定のリスクが発生する可能性を示す指標であり、リスクの早期警告システムとして機能します。

KRIの設定:KRIは、リスクの特性に基づいて設定されます。例えば、サイバーリスクに対するKRIとして、ネットワークへの不正アクセス試行の回数や、セキュリティパッチの適用率などが考えられます。

KRIのモニタリング:KRIは定期的にモニタリングされ、リスクの変化を把握するための重要な情報源となります。KRIが設定した閾値を超えた場合、リスクマネジメントチームは迅速に対応策を講じる必要があります。

KRIKPIの連携:KRIKPIは相互に関連しており、KRIの変化がKPIにどのように影響するかを分析することで、リスクマネジメントの全体的な効果を評価することができます。

これらのKPIとKRIを定期的にモニタリングし、評価することで、リスクマネジメントの効果を客観的に把握し、必要な改善策を講じることができます。

【図9】KPIとKRIの比較表



5.2 継続的改善のプロセス

リスクマネジメントは一度設定したら終わりではなく、継続的な改善が求められます。継続的改善のプロセスは、以下のステップで構成されます。

評価と分析:定期的にリスクマネジメントのプロセスを評価し、KPIやKRIを用いてパフォーマンスを分析します。これにより、強みや改善点を特定します。

フィードバックの収集:従業員やステークホルダーからのフィードバックを収集し、リスクマネジメントのプロセスに対する意見や提案を反映させます。これにより、実際の運用に即した改善が可能になります。

改善策の策定:評価結果やフィードバックを基に、具体的な改善策を策定します。これには、新たなリスク管理手法の導入や、既存のプロセスの見直しが含まれます。

実施とモニタリング:策定した改善策を実施し、その効果をモニタリングします。改善策が期待通りの効果を上げているかを確認し、必要に応じて調整を行います。

文書化と共有:改善プロセスの結果を文書化し、社内で共有します。これにより、組織全体での学びを促進し、次回のリスクマネジメントに活かすことができます。

このように、継続的改善のプロセスを通じて、リスクマネジメントの質を向上させ、企業の持続可能な成長を支えることができます。



5.3 リスクマネジメントの未来
リスクマネジメントの未来は、テクノロジーの進化やビジネス環境の変化に伴い、ますます重要性を増しています。以下は、今後のリスクマネジメントにおける主要なトレンドです。

デジタルリスクの増加:デジタル化が進む中で、サイバーリスクやデータプライバシーのリスクが増加しています。企業は、これらのリスクに対する戦略を強化し、迅速に対応できる体制を整える必要があります。

AIと自動化の活用:AIや自動化技術の進化により、リスクの特定や評価、対応策の実施がより効率的に行えるようになります。これにより、リスクマネジメントのプロセスが迅速化し、人的リソースの負担が軽減されます。

統合的アプローチの重要性:リスクマネジメントは、企業の戦略や業務プロセスと統合される必要があります。リスクを戦略的な意思決定に組み込むことで、企業全体のパフォーマンスを向上させることができます。

持続可能性と社会的責任:環境リスクや社会的責任に対する意識が高まる中で、企業は持続可能なリスクマネジメントを実践することが求められます。これには、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を考慮したリスク管理が含まれます。

このように、リスクマネジメントは今後ますます進化し、企業の競争力を支える重要な要素となるでしょう。企業は、変化するリスク環境に柔軟に対応し、持続可能な成長を実現するための戦略を構築することが求められます。次章では、リスクマネジメントの実践事例について詳しく探っていきます。

第6章:テクノロジーとリスクマネジメント

現代はVUCA時代と言われています。VUCAとは、①Volatility(変動性)、②Uncertainty(不確実性)、③Complexity(複雑性)、④Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものです。リスクを避ける(ヘッジ)だけではなく、積極的な管理(コントロール)が必要になっています。


6.1 デジタル化とリスクの新たな側面
デジタル化は、企業の運営方法やビジネスモデルに大きな変革をもたらしていますが、それに伴い新たなリスクも生じています。デジタル化によって、情報の流通が加速し、業務プロセスが効率化される一方で、以下のようなリスクが顕在化しています。

データプライバシーのリスク:
顧客データや企業の機密情報がデジタル化されることで、データ漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。企業は、個人情報保護法やGDPRなどの法令に準拠する必要があります。弊社、株式会社GRCSはデータプライバシーにおけるデータ管理の一元化・可視化と自動化を実現する世界的ツールOne Trustの日本で最初の販売パートナーです。日本語でのサポートに力を入れており、日本を拠点とするグローバル企業から多くの反響をいただいています。お気軽にお問合せください。

業務の依存度の増加:
デジタルツールやプラットフォームに依存することで、システム障害やサービス停止が発生した際の影響が大きくなります。これにより、業務の継続性が脅かされる可能性があります。
新たな競争環境:
デジタル化により、競争が激化し、従来のビジネスモデルが脅かされることがあります。新興企業やテクノロジー企業が市場に参入することで、既存企業は競争力を維持するための戦略を見直す必要があります。

このように、デジタル化はリスクの新たな側面を生み出す一方で、リスクマネジメントの手法を進化させる機会でもあります。企業は、デジタル化に伴うリスクを適切に評価し、対応策を講じることが求められます。



6.2 AIとデータ分析の活用
人工知能(AI)とデータ分析は、リスクマネジメントにおいて強力なツールとなります。これらの技術を活用することで、企業はリスクをより効果的に特定、評価、管理することが可能になります。

①リスクの予測と分析
AIを用いたデータ分析により、過去のデータからリスクのパターンを特定し、将来のリスクを予測することができます。これにより、企業はリスクの発生を未然に防ぐための対策を講じることができます。

②リアルタイムのモニタリング
AI技術を活用することで、リアルタイムでリスクをモニタリングし、異常を検知することが可能です。これにより、迅速な対応が可能となり、リスクの影響を最小限に抑えることができます。
株式会社JX通信社が提供するFASTALERTは、情報収集AIであり、リスクの早期発見にも活用できます。弊社、株式会社GRCSのEnterprise Risk MT(ERMT)とFASTALERTは連携でき、FASTALERTで収集した情報の中から、自社に関わる情報だけをEnterprise Risk MT(ERMT)内にチケットとして発行し、優先度の高い処理をサポートします。

【図10】

③意思決定の支援
データ分析に基づくインサイトを提供することで、経営層やリスクマネジメントチームがより情報に基づいた意思決定を行うことができます。これにより、リスクに対する戦略的なアプローチが強化されます。

AIとデータ分析の活用は、リスクマネジメントの効率性と効果を向上させるための重要な要素です。企業は、これらの技術を積極的に導入し、リスク管理のプロセスを革新することが求められます。



6.3 サイバーリスクへの対応
デジタル化が進む中で、サイバーリスクは企業にとって最も重要なリスクの一つとなっています。サイバー攻撃やデータ漏洩は、企業の財務状況や評判に深刻な影響を与える可能性があります。以下は、サイバーリスクへの対応策です。

セキュリティ対策の強化:ファイアウォール、侵入検知システム、暗号化技術などのセキュリティ対策を導入し、サイバー攻撃から企業を守るための基盤を築くことが重要です。また、定期的なセキュリティ監査を実施し、脆弱性を特定して対策を講じることが求められます。

従業員教育と意識向上:サイバーリスクに対する従業員の意識を高めるための教育プログラムを実施します。フィッシング攻撃やマルウェアのリスクについての知識を提供し、従業員が適切な行動を取れるようにすることが重要です。

インシデント対応計画の策定:サイバー攻撃が発生した際の対応手順を明確にしたインシデント対応計画を策定します。この計画には、攻撃の検知、影響の評価、関係者への通知、復旧手順などが含まれます。迅速かつ効果的な対応が、被害を最小限に抑える鍵となります。

外部パートナーとの連携:サイバーリスクに対する対応は、企業内部だけでなく、外部の専門家やパートナーとの連携も重要です。サイバーセキュリティの専門企業と協力し、最新の脅威情報を共有し、効果的な対策を講じることが求められます。

このように、テクノロジーはリスクマネジメントの手法を進化させる一方で、新たなリスクを生み出す要因ともなります。企業は、テクノロジーの利点を最大限に活用しつつ、リスクに対する適切な対応策を講じることが求められます。次章では、リスクマネジメントの評価と改善について詳しく探っていきます。

第7章:ケーススタディ

広島県広島市に本社を置く老舗の化学素材メーカー戸田工業様の事例を紹介します。

① なぜERM(全社的リスクマネジメント)に取り組もうと思ったのか
戸田工業株式会社は、創業以来200年にわたり、微粒子の可能性を追求し続けてきました。事業が拡大する中で、企業活動に影響を及ぼすリスクが複雑化し、不確実性が増しているVUCAの時代において、経営戦略や事業目的を達成するためには、重大なリスクに的確に対処することが不可欠であると認識しました。そのため、全社的なリスクマネジメントの強化が必要とされました。

②既存フローでの限界。ツール活用の背景
従来、各拠点で個別にリスク管理を行っていましたが、全社横断的なリスク管理への変革が求められる中で、2022年10月にリスク管理推進室が発足しました。情報をリアルタイムに把握し、効率的にPDCAを回すためには、適切なツールが必要であるとの認識が高まりました。特に、Excelでのデータ集約作業が煩雑で、分析に十分な時間を割けないという課題が浮き彫りになりました。

③ Enterprise Risk MTの導入前後での変化や効果
Enterprise Risk MTを導入した結果、リアルタイムでのリスク情報把握が可能になり、Excelでの取りまとめ作業から脱却することができました。各担当者は、リスク対策活動の進捗をERMTを通じて報告し、インシデントも発生後すぐに登録されるようになりました。これにより、リスク管理推進室は月1回経営陣に進捗報告を行うことができ、定期的な確認も容易になりました。情報の取りまとめが中心だった作業から、集めた情報の分析が活動の中心に移行し、全社のリスクを横断的に把握できるようになりました。

④ 今後の展望
今後、戸田工業株式会社はリスク管理の強化を通じて企業価値を向上させることを目指しています。ERMT導入後、社内で「リスク管理」という言葉が浸透し、リスク文化の醸成が進んでいるとのことです。重岡氏は、「リスク管理活動を企業価値を高めることに繋げていきたい」と抱負を語っており、今後もリスク管理の重要性を認識し、さらなる体制強化を図っていく方針とのことです。

⑤まとめ
全社的リスクマネジメント(ERM)は、企業の持続的な成長と競争力を維持するための重要な要素です。戸田工業様の取り組みは、リスクを単なる障害として捉えるのではなく、企業価値を高める機会として活用する姿勢を示しています。ERMTの導入により、リアルタイムでの情報把握と効率的なPDCAサイクルの確立が実現され、リスク管理のプロセスが大きく進化しました。

今後、リスク管理の文化がさらに根付くことで、戸田工業様は市場の変化に柔軟に対応し、持続可能な成長を遂げることが期待されます。企業が直面するリスクは多様化しており、これに対する戦略的なアプローチが求められます。リスクを適切に管理し、機会として捉えることで、企業は新たな価値を創造し、競争優位を確立することができるのです。

私たちも、戸田工業様のようにリスク管理を戦略的に進める企業を支援し、共に成長していくことを目指しています。

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まとめ

リスクマネジメントの重要性とそのプロセスについて詳しく解説してきました。リスクは企業やプロジェクトにおいて避けられない要素であり、適切に管理することで持続可能な成長を実現するための鍵となります。以下に、本書の主要なポイントをまとめます。

リスクの特定と評価:リスクの種類や特性を理解し、適切な評価手法を用いることで、リスクを正確に特定し、分析することが可能です。リスクマップを活用することで、リスクの可視化と優先順位付けが容易になります。

リスク対応策の策定:評価したリスクに対して、回避、軽減、受容、または転嫁といった戦略を策定することが重要です。これにより、リスクの影響を最小限に抑えることができます。

継続的改善のプロセス:リスクマネジメントは一度設定したら終わりではなく、継続的な改善が求められます。KPIやKRIを用いてパフォーマンスを評価し、フィードバックを基に改善策を講じることで、リスクマネジメントの質を向上させることができます。

ケーススタディからの学び:日本企業だけでなく海外企業の成功事例、失敗事例からも得られる教訓は多く存在します。他社の事例はリスクマネジメントの実践において非常に貴重です。これらの事例を参考にすることで、より効果的なリスクマネジメント戦略を構築することができます。株式会社GRCSは、多くのお客様のナレッジが蓄積されており、ERM研修サービスやERM高度化支援コンサルティングを通して、日本企業のリスクマネジメント活動をご支援しています。

テクノロジーの活用:データを活用したリスク評価やモニタリングは、今後のリスクマネジメントにおいてますます重要な役割を果たすでしょう。デジタル化が進む中で、企業は新たなリスクに柔軟に対応するための体制を整える必要があります。Enterprise Risk MT(ERMT)は、Excelやスプレッドシートでは実現の難しかった分析・可視化が容易にできるERMに特化したツールです。詳細の資料はコチラからダウンロードいただけます。

資料DLはこちら-CTA-Navy

 

 

 


株式会社GRCS 執行役員 MTシリーズ開発責任者
大阪大学大学院工学研究科卒業後、日本ヒューレット・パッカード株式会社にて、国内開発セキュリティ製品のコンサルティング、製品企画、戦略策定に従事し、市場No.1のシェア獲得に貢献。その後、2016年にGRCSに参画し、全社リスク管理をはじめとするクラウドサービス等の開発およびマーケティング責任者に就任。