
― リスクマネジメントを起点にした、経営構造改革の本質 ―
なぜ今「ガバナンスDX」なのか?
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティ経営が加速する中で、「ガバナンス」の意味も拡張しています。
かつてのガバナンスは「不正の抑止」「業務の適正化」といった 守りの統治 が中心でしたが、今や 企業価値を高めるための攻めの基盤 として捉えられ始めています。
そのために必要なのが、リアルタイムで透明性の高いリスク管理体制 であり、それを可能にするのが「ガバナンスのDX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
1. ガバナンスの構造理解:3線モデルは進化しているか?
ガバナンスの中核であるERM(全社的リスクマネジメント)は、3線モデル(Three Lines Model) を前提としています。
線 | 担当部門 | 主な役割 |
---|---|---|
第1線 | 事業部門 | リスクの洗い出し・対策の実行 |
第2線 | リスク管理・コンプライアンス | 指導・モニタリング |
第3線 | 内部監査部門 | 評価・報告 |
このモデルは、機能的な分離と情報の循環 を前提としていますが、現実はどうでしょうか?
2. 現場の実情:Excelとメールによる「静的リスク管理」
多くの企業では、年1回、事業部門がExcelファイルにリスク情報を記入し、メールで回収・集計される形式が取られています。
この方法には以下のような深刻な限界があります:
- リスクの鮮度が低い:集計から報告までの時間が長く、最新状況が反映されない
- 網羅性の欠如:リスク洗い出しが属人的で、チェックの仕組みが曖昧
- PDCAの不在:定期的に評価・修正できず、形骸化した管理に陥る
- 責任の不明確さ:誰がどのリスクをいつ評価したかの記録が曖昧
このような状態では、重大なリスクが見過ごされるリスク すら内在していると言えます。
3. DXによる変革:構造的・文化的な変化の始まり
「ガバナンスのDX」とは、単なるツールの導入ではありません。
情報の流れ、意思決定のロジック、組織文化そのもの を再設計する取り組みです。
DXによる主な効果:
- 🔄 情報の一元管理
-
- 各事業部でバラバラだったリスク情報を、正規化された共通フォーマットで統合
- 過去の履歴・対応状況を一元的に追跡可能に
- 📊 可視化とリアルタイム性
-
- 重要なリスクのKPI化・スコア化による ダッシュボード表示
- 定量情報だけでなく、定性的な兆候の記録(テキストやログ) にも対応
- ✅ ワークフローの自動化
-
- モニタリング、承認、是正報告の ルールベース自動化
- 進捗遅れや異常値は 自動でアラート通知
- 🧠 AIとの連携
-
- リスク兆候の自動検知(たとえば、社員からの匿名通報の自然言語解析)
- 過去データに基づく リスク評価の自動スコアリング
4. DX導入における現実:文化と人の壁
DX化の最大の壁は、システムではなく「人」 です。
- データ入力の習慣がない
- リスク管理が「お題目」と思われている
- 現場と経営の温度差がある
これを乗り越えるには、「業務プロセスに自然に組み込まれたDX」である必要があります。
たとえば:
- 会議の議題作成が、システム内のリスクデータをもとに自動提案される
- 各自のToDoリストに自動でリスク対策の期限が表示される
つまり、「管理されている感」を持たせずに、行動そのものがDXと接続する状態 を作る必要があります。
5. 弊社サービス:Enterprise Risk MTの位置づけ
弊社のクラウドサービス「Enterprise Risk MT」は、以下を特長としています。
- 💡 ノウハウ継承と進化の両立
-
- Excelベースで蓄積されたロジック(スコア計算・閾値設定)を そのまま継承可能
- ノーコードでのカスタマイズにより、現場が自分たちで改善できる柔軟性
- 🔗 API連携と拡張性
-
- 会計システムや労務管理、外部監査ツールとの シームレスな統合
- AI・BIツールとの 予兆検知・分析拡張も可能
- 🧭 導入支援の伴走型アプローチ
-
- 導入時は現場ヒアリングを重視し、業務設計そのものを共に見直す
- トライアル導入で 少しずつカルチャー変革を促進
6. 法規制やESGとの整合性
今後、ガバナンスはさらに「外部からの説明責任」を問われる時代に入っていきます。
- 内部統制報告制度(J-SOX)
- 統合報告(Integrated Reporting)
- ESG開示(GRI / TCFD など)
これらはすべて、「ガバナンスの透明性と持続性」が前提です。
DXを通じて記録・エビデンス・説明性を高めることは、リスクマネジメントを超えた経営戦略 そのものになるでしょう。
結論:ガバナンスDXは「企業の意思決定構造」の再設計である
「ガバナンスのDX」とは、システム導入ではありません。
それは、企業が情報をどう扱い、どう決定し、どう責任を持つかを再設計するプロセス です。
私たちはそのプロセスに、現場視点とテクノロジーを橋渡しする立場 として伴走してまいります。

徳永 拓
株式会社GRCS 執行役員 MTシリーズ開発責任者
大阪大学大学院工学研究科卒業後、日本ヒューレット・パッカード株式会社にて、国内開発セキュリティ製品のコンサルティング、製品企画、戦略策定に従事し、市場No.1のシェア獲得に貢献。その後、2016年にGRCSに参画し、全社リスク管理をはじめとするクラウドサービス等の開発およびマーケティング責任者に就任。