ESG投資やESG経営が注目を集める中、ESGについて理解することは重要です。本記事では、ESGの背景、ESG投資からESG経営、ESG対応のステップなど抑えておきたい基礎情報について解説します。ESGは、企業が長期的な持続可能性を追求する上で欠かせない要素であり、ESGに沿った取り組みが企業の評価向上や社会的信頼性向上につながることが期待されます。基礎情報をしっかりおさえておきましょう。
目次
ESGは、Environment、 Social、Governance(環境、社会、企業統治)の頭文字をとった言葉です。企業に対する評価は従来の売上高や利益、成長性などの財務的評価だけでなく、環境、社会、企業統治(ガバナンス)の側面の非財務を含めた総合的な評価が求められるようになりました。
それではなぜ企業に対する評価がこのように変わってきたのでしょうか。
ESGという概念は、1920年代に登場したSRI((Socially Responsible Investment - 社会的責任投資)という投資手法の流れを組み、1990年代頃から徐々に注目を集めるようになりました。企業発端の社会問題や環境負荷が多発し、その重要性が認識されてきたからです。
2006年になると当時の国連事務総長コフィ・アナン氏の要請により、PRI(Principles for Responsible Investment-責任投資原則)が発表されました。PRIには責任ある投資を推進するための行動指針・原則が書かれています。
PRIの6原則このように国連は、地球や人類の持続可能性を高めるために、経済社会への影響力が高い投資家に対して働きかけました。
PRIの登場により、投資家はESG要素を投資判断の重要な要素として考慮するようになり、持続可能性を重視した投資戦略が採用されるようになりました。
さらに2008年のリーマンショックを契機にESG投資はより一層高まりました。金融危機を経験した投資家や企業が、企業の長期的な価値創造やリスク管理にESGの観点を取り入れることの重要性を認識するようになったのです。
また企業側も株価の大幅な下落、大量リストラにより失った信用を取り戻すために、長期的な経営目線でCSRを強化、環境配慮にも予算を投じるようになり、大株主も長期目線での経営を痛感し企業のサステナビリティ・アクションを支持し始めました。
さて日本の動きはどうだったでしょうか。
日本も過去からの公害や人権問題を受け1990年代から環境、社会を重視した経営が本格的に行われるようになりました。2000年代に入り大規模な企業不祥事が相次いだ後ガバナンスの強化も進み、2014年には日本版スチュワードシップコード(責任ある機関投資家の諸原則)が策定・公表されました。
ESGが活発化したのは、2015年のGPIF (年金積立金管理運用独立行政法人)の国連PRIへ署名した後です。これをきっかけに機関投資家を中心に日本でもESG投資が徐々に拡大していきました。
このようにESG投資が拡大し始めると企業側の経営戦略にも影響が出てきます。
企業は環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点から持続可能な経営(ESG経営)を実践するようになりました。
企業は単に利益を追求するだけでなく、環境や社会に配慮した経営を行い、良いガバナンスを確保することで、社会的な信頼性や価値を高めることを目指すという考え方にシフトしてきたのです。
ESG経営を実践していくにあたり、具体的にどのようなことを考慮したらよいでしょうか。
ESGのEnvironmental(環境)には、気候変動、廃棄物処理、エネルギー使用、自然資源の保護などが含まれます。Social(社会)には、人権、従業員の労働条件、社会的課題への取り組みなどが含まれます。
Governance(ガバナンス)には、企業の取締役会や役員、企業の経営に関する透明性や倫理性などが含まれます。
一つずつみていきましょう。
企業は二酸化炭素排出量の削減、エネルギーの効率的な使用、廃棄物や排水の適切な処理、環境に配慮した製品やサービスの提供などを目指すことが求められます。また、環境保護に関する法規制や規制に従い、違反行為を行わないことも求められます。環境に配慮した製品やサービスの提供は、市場競争力の向上につながることがあります。
企業は従業員の福利厚生の向上、人権や労働権の尊重、多様性と包含性(ダイバーシティ&インクルージョン)の向上、地域社会への貢献、サプライチェーンにおける人権などに配慮することが求められます。
従業員のモチベーション向上や社会的な信頼性向上などが業績向上につながることがあります。
企業は取締役会や監査委員会などの組織を設置し、役員の報酬や内部統制の強化、情報開示の改善、コンプライアンスの遵守などを行うことが求められます。また、企業の株主やステークホルダーとの関係を良好に保つことが期待されます。
より良いガバナンスを実践する企業は、投資家や金融機関からの信頼性が高く、持続的な成長につながることが期待できます。
企業のサステナビリティについてはESGの他にSDGs、CSRという用語があります。混同しやすいキーワードですので違いを説明します。
SDGs(Sustainable Development Goals) は、国連が2030年までの達成を掲げた持続可能な開発目標です。17の目標と169のターゲットから構成され、貧困や格差、気候変動など、地球規模の課題の解決を目指しています。「誰一人取り残さない」という理念にもある通り、世界中の誰もが参加し誰もが対象となる目標です。
一方でESGは企業の環境、社会、ガバナンスに関する評価や情報開示を促進することを目的とした考え方です。意識する対象としては企業のステークホルダーです。
企業はSDGsを目標として掲げ達成を目指すことで、ESGの達成も目指すことができますので、補完関係にあると言えます。
CSR(Corporate Social Responsibility) は企業が自らの社会的責任を果たすことを目的とした考え方です。日本では2000年に入ってから多くの企業でCSRという部門が新設され、ISO26000をベースに事業とは切り離された形で寄付や社会貢献活動などを行ってきました。しかし最近ではCSV(Creating Shared Value)という企業がビジネス活動を通じて社会的な課題を解決し、同時に企業価値を向上させることを目指す取り組みが重要という考え方が浸透してきたため、CSRという用語はあまり使われなくなってきています。
さてここで冒頭に出てきたESG投資についてもう少し詳しく説明します。
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点を評価し、それに基づいて企業・銘柄を選定する投資のことです。ESG投資は、従来の金融投資に比べて、社会的責任や持続可能性の観点から企業や銘柄を選定することが求められますが、長期的にみて安定した利益を上げることができると考えられています。
ESG投資の考え方は7つに整理されています。
多く利用されているのは次の2つです。
その他の5つは次の通りです。
これらのESG投資の手法を活用することで、持続可能性を考慮した投資が実現できます。
一方で、中長期的なESG投資のパフォーマンスについてはまだ結論が出ていないことや、ウクライナ戦争後に、ネガティブ・スクリーニングにて除外されていた軍需産業、燃料、エネルギー銘柄の株価が高騰したこともあり、米国を中心に反ESG勢力が一定数いることも確かです。
さてここからは企業がESGに対応する為に何をすればいいのかを説明します。
ESGへの対応を開始するためには4つのステップがあります。
Step1ではまず始めにESGには一般的にどのような課題があるか、ガイドブックや書籍、調査資料、セミナー等で情報を収集します。またESG投資の考え方や仕組み、手法についての学ぶ必要があります。情勢は日々進化し続けていますので、より新しい情報を入手することも求められます。
Step2のマテリアリティの特定については、以下観点それぞれにおける、リスクと機会の長期視点での影響を分析していきます。
Step3では、Step2で特定したマテリアリティに対し指標と目標値を決めていきます。
次の2種類の方法があります。
後者の方法は「バックキャスティング」と呼ばれ、気候変動に関するTCFD 提言等ではこの方法が推奨されています。
マテリアリティとその指標、目標値については、組織のトップ、経営者が責任を持って関与し、経営戦略に組み込んでいくことが大切です。最終決定は、取締役会や経営会議で行っていきます。
最後にStep4で開示を行います。
開示は既存の情報開示の指標や枠組みを活用しつつ、自社に合った内容で分かりやすく表現すると良いでしょう。また海外投資家が情報をより容易に入手できるよう、英語版での作成も有効です。開示媒体としては、自社Webページ、統合報告書、サステナビリティ報告書、環境報告書などが考えられます。
開示を開始したら、定期的に達成度合いなど進捗を確認、ステークホルダーとのエンゲージメントによる情報も加味し情報のアップデートをおこないPDCAを回し運用します。
エンゲージメントでは、ESGを含む企業の課題について、リスクと機会の観点からどのような対応・対策を講じているか等について話し、互いの理解を深めていきます。
ここでは参考までにマテリアリティの特定や指標と目標値、情報開示で利用する国際的な指標、枠組についてご紹介します。
この他にもSDGs(Sustainable Development Goals)を参考にする企業も多くあります。
最後にESGを推進していく上での悩みや課題点とその対策をまとめておきます。
いかがでしたでしょうか。企業におけるサステナビリティ、ESG経営は今後ますます重要になります。ESGに取り組むことで企業価値や信頼性向上や業績の向上も期待できます。 サステナビリティ担当部門のみならず、経営者、及び従業員全員が理解し、積極的に取り組んでいきましょう。